Central DS Astro6D のインプレッション
ラセルタモーターフォーカス(以下:ラセルタMFOC)は、M-GENスーパーガイダーでお馴染みの「Lacerta(ラセルタ)」が製造している電動フォーカサーです。 今回、タカハシのε-130DとFSQ-85EDにラセルタMFOCを取り付けて撮影する機会を得ましたので、 ラセルタMFOCの概要と使用した印象をレビューにまとめました。
ラセルタMOFCについて
天体撮影用の電動フォーカサーには、大きく分けて、フランジ型の製品と、 望遠鏡のドロチューブ機構に取り付ける、ラック&ピニオン型の2種類があります。 ラセルタMOFCは後者のタイプで、下の写真のように、望遠鏡のピントノブを外した部分に、 付属アダプターを使ってモーターを固定し、コントローラーでこのモーターを回転させてピントを合わせます。
望遠鏡の光路内に組み込むフランジ型の製品(β-SGRなど)と比べ、ラセルタMOFCは、 天体望遠鏡のピント機構を使用するので、バックフォーカスを気にする必要がありません。 また、汎用性が高く、取付アダプターを替えれば、様々な望遠鏡に使用することができます。
ラセルタMOFCには、コントローラー本体と電動モーター、望遠鏡取り付け用のアダプター、各種ケーブル類が付属します。 なお、ラセルタMOFCのコントローラーは、ボタンの配置は若干異なるものの、M-GENスーパーガイダーとそっくりの形をしていますので、 M-GENユーザーには馴染みやすいのではないでしょうか。
ラセルタMOFCの機能について
ラセルタMOFCは、高機能な電動フォーカサーで、コントローラーを使って単純にモーターを動かしてドロチューブを前後させる機能だけではなく、 温度センサーに従ってピントを補正したり、パソコンとASCOM接続したりといった、 電動フォーカサーに必要とされる様々な機能が設けられています。
天体写真ファンには、モーターの動きの細かさが気になるところですが、取扱説明書によれば、 最小の繰り返し精度は0.001mmですので、F値の明るい望遠鏡でも十分な精度でしょう。 また、ステップ数は250,000ステップと余裕があり、 望遠鏡のドロチューブにもよりますが、必要十分なストローク(可動範囲)があると言えると思います。
モーターには、ステッピングモーターが使われています。 取扱説明書によれば、ホールド時の最大能力は5キロとありますので、 重いデジタル一眼レフカメラでも保持できそうです。
ラセルタMOFCの取り付け方
実際の使用レビューの前に、鏡筒に取り付けた様子をご覧ください。 詳しい取り付け方は、説明書をご確認いただければと思いますが、 ここでは取り付け方のコツをご紹介します。 まず、天体写真ファンに人気の高いタカハシε-130Dへの取付です。
上記のように、ε-130Dのピントノブを外してラセルタMOFCのモーターを挿し込み、 付属のアダプター(大)を使って固定します。
アダプターを接眼部に固定するネジの両側に、隙間を調整するイモネジがあります。 このイモネジを使って、ラック&ピニオンとモーターの軸が一直線になり、 ドロチューブがスムーズに動くように調整してください。 この部分の動きが悪いと、モーターに余計な負荷がかかり、エラーが発生することがあります。
次は、FSQ-85EDへの取付です。上の写真のように、減速装置と逆側のノブを外し、そこにモーターを取り付けます。
アダプターは、ε-130Dとは別のものを使用します。このアダプターには、調整用のイモネジはありませんので、 ねじ込んで固定するだけです。 ただ念のために、ドロチューブの動きは確認しておきましょう。
今回、試用したラセルタMOFCには、タカハシ製望遠鏡に取り付けるためのアダプターが2種類付属していました。 このアダプターを使用すれば、一部の望遠鏡(TOA-150B等)を除き、 たいていのタカハシ製望遠鏡にモーターを取り付けることができます。
ラセルタMOFCの使い心地
ラセルタMOFCを使用して、実際に星空撮影を行い、電動フォーカサーの使い心地を確認しました。 使用した望遠鏡は、天体撮影ファンに人気の高い高橋製作所のε-130DとFSQ-85EDです。 これらに、重さ約1.4キロのフルサイズ冷却デジタルカメラ、Astro6Dを取り付けて撮影を行いました。
パソコンとは接続せず、コントローラーのボタンを押して、カメラのライブビュー画面を見ながらピントを合わせました。 下の画像のように、ラセルタMOFCの液晶ディスプレイに、モーターのステップ数と動く方向が常時表示されますので、 ピントをどの方向にどれだけ動かしたかがすぐにわかります。
※下の画像の「6715」がステップ数、「In」がモーターが動いている方向です。
これまでは、望遠鏡の接眼部にアナログのピントゲージを取り付け、小さなメモリを見ながらピントノブを慎重に回し、 どの方向にどれだけ動かしたかを覚える必要がありましたが、 ラセルタMOFCでは快適にピント合わせができました。
重さ約1.4キロのAstro6Dを接眼部に取り付けましたが、特に動作に問題はありませんでした。 ただ、数キロを超える非常に重い冷却CCDカメラ(FLIのProlineなど)や、 巨大なオフアキシスガイダーを接眼部に取り付ける場合は、事前に相談した方がよいでしょう。
モーターの最小移動量は十分に小さく、F値の明るいε-130Dで使用しても、ピント合わせの精度は十分でした。 F2.8クラスの望遠鏡でも、必要十分なピント精度が得られると感じました。
ASCOM接続でより高度なフォーカシング
スタンドアロンでも便利なラセルタMOFCですが、USBケーブルでパソコンに繋ぎ、 ASCOM対応のソフトウェア(FocusMaxやMaximDLなど)を使って、ピントを合わせることも可能です。 今回は、ASCOM対応のフォーカシングソフト「FocusMax」と冷却CCDカメラを使って、 実際に星空を撮影し、ラセルタMOFCの動作を確認しました。
上の画像は、FocusMaxを使ってピントを合わせている時のパソコン画面です。 左のFocusMaxのダイアログボックスの「Focuser」欄に「LacertaMotorFocus」が選択されていることが確認できます。
FocusMaxは、カメラ制御ソフトと連携して、オートフォーカスが可能なソフトウェアです。 上画面の中央に、赤い丸が幾つも「V」上に並んだダイアログボックスがありますが、 この赤い丸の回数だけ、ラセルタMOFCがピントをずらして撮影を行い、 ピントの最適位置を探しました。 ラセルタMOFCは、FocusMaxとの連携も良好で、パソコン上でも快適にピントを合わせられることが確認できました。
なお、ASCOM対応ソフトウェア上でラセルタMOFCを制御するには、ASCOMドライバーのインストールなどが必要です。 若干専門的な知識や対応ソフトが必要ですが、 普段、パソコンからデジタルカメラを制御して撮影されている方にとっては、魅力的な機能でしょう。
その他の便利な機能
ラセルタMOFCは高機能なフォーカサーですので、全ての機能は試せませんでしたが、 天体撮影に役立つ、いくつかの便利な機能をご紹介しましょう。
- ハンドコントローラーのボタンを押し続ける代わりに、GOTO機能を使って、 希望のカウント位置まで一気に動かすことができます。 ピント位置を大きく動かしたいときに便利な機能です。
- フォーカサーのオフセット値を、9つまで登録することができます。 具体的には、フィルター毎のピントの誤差を事前に登録しておき、 フィルターを交換するごとに、オフセット値を読み出してピントを一気に合わせることができます。
- パーマネントフォーカス機能(PermanentFocus)と呼ばれる、温度補正機能付きのモードが用意されています。 この機能は、電源を切るときのピント位置を記憶し、次回、電源を入れたときに、 温度プローブの計測値を参考にして、最適なピント位置まで自動的にモーターを動かす機能です。 この機能を正しく使用するには、温度変化時のピントの移動量、ラック&ピニオンのバックラッシュ量を事前に登録する必要がありますが、 使いこなせば便利な機能でしょう。
- M-GENスーパーガイダーとラセルタMOFCを繋ぐことで、シャッターが閉じている間に、 設定した温度変化時のピント移動量に基づき、ピントの温度補正を行うことができます。 また、ソフトウェアが対応していれば、パソコン上のASCOM対応プログラムでも可能です。
まとめ
今回、ラセルタMOFCを天体撮影に使用してみて、コントローラーの使い勝手の良さと、 ASCOM対応ソフトウェアと連携して高度な天体撮影にも対応できることを確認することができました。
ラセルタMOFCは、オートガイダーとして人気の同社の M-GENスーパーガイダーと同じように、 コントローラーを使って天体写真の初級者の方でも簡単に操作でき、 かつ、ベテランの方でも満足できる機能が内蔵された電動フォーカサーだと感じました。
天体写真を撮影する上で、ピント合わせは大変重要ですが、面倒な作業でもあります。 スタンドアロンからASCOM制御にまで対応したラセルタMOFCを使用すれば、 これまでより簡単かつ正確にピント合わせをすることができるでしょう。 ラセルタMOFCは、よりシャープな画像を得る上で、大きな手助けになるツールだと思います。